「○○くん、このプロジェクトのリーダーお願いね!君ならできるよ」と上司から白羽の矢がたち、気軽に引き受けてみたものの…。
「プロジェクトリーダーって一体なにをやったらいいの…?」
おそらく初めてプロジェクトリーダーに任命された方は、誰もが、そのような状態からスタートすることでしょう。
しっかりとした教育体制が整った会社であれば、プロジェクトマネジメントについて座学やOJTを通して学ぶことができると思いますが、多くの方は上司からいきなり無茶振りされるのではないでしょうか。
またこれまで何度もプロジェクトリーダー/マネージャーを経験されている方にも、プロジェクトマネジメントを理解しておらず、受け持ったプロジェクトを炎上させてしまったり、ゴールに達する前に失敗に終わらせている方も多いと思います。
苦労することばっかりで敬遠されがちなプロジェクトリーダーですが、実は「プロジェクトマネジメントとはなんぞや」を体系的に理解することで、それほど難しくなく、とてもやりがいのあるポジションだと感じることができるでしょう。
なぜなら私もかつてプロジェクトリーダーって何をするのか分からないまま任命されて、試行錯誤しながらなんとかこなしていましたが、プロジェクトマネジメントの体系を知るようになってから、見違えるほどにプロジェクトをうまく成功へ導くことができるようになったからです。
この記事では、プロジェクトマネジメントを構成する大切な要素について紹介することで、新米プロジェクトリーダーやいつもプロジェクトを失敗させて困っているプロジェクトリーダー/マネージャーが、プロジェクトをうまく成功させることができるようになります。
プロジェクトマネジメントを構成する要素
国際的に標準とされプロジェクトマネジメントを知識体系的にまとめたPMBOK(ピンボック)によると、プロジェクトに発生する多数のプロセスを幅広いプロジェクトにも適応可能な5個の基本となるプロセス群と10個の知識エリアに分類して定義しています。
基本となる5つのプロセス群
PMBOKでは、プロジェクトのスタートからクローズに至るまで以下のような5つのプロセス群で定義されています。
step
1立ち上げ
プロジェクト開始前に、そのプロジェクトの開始の認可を得るプロセス。
プロジェクトを発足し、そのプロジェクトの目的や目標、予算、成果を定め、ステークホルダー(利害関係者)や関係組織を明らかにし、プロマネやプロジェクトメンバーの選任、会議体の定義などを行うプロセスです。
step
2計画
プロジェクト開始後に目標を達成するための計画を立てるプロセス。
プロジェクトが取り組むべき目標の達成に必要な一連の行動を規定するために必要なプロセスであり、例えば、プロジェクトのスコープの確定や目標をブラッシュアップし、その目標を達成するための作業の定義やスケジュール作成、コスト見積もり、人的リソース計画、品質計画、組織計画などを行うプロセスです。
それらの計画はプロジェクトマネジメント計画書として定義され関係者に共有されます。
step
3実行
立案した計画(プロジェクトマネジメント計画書)に基づき、定義した作業を完了すべく実行していくプロセス。
プロジェクトを進める中で、チームを構築・育成し、チームに情報を伝達し、進捗や課題等をステークホルダーに報告します。
必要に応じて、スコープの変更など判断せざるを得ない場合もあります。
step
4監視・コントロール
主に実行プロセスと密接な関係を持ち、そのプロセスの監視・コントロールを行うものですが、同時に他のプロセスについても監視・コントロールを行うプロセス。
進捗管理や課題・リスク、コストの統制・管理などを行い、変更の必要な分野があれば是正や変更の判断を行います。
step
5終結
プロジェクトの目標を達成するために必要なすべての作業の完了を検証・確認し、プロジェクトを正式に終了させるためのプロセス。
プロジェクトを通して得られた情報や知見を次のプロジェクトへ活かすため振り返りを行うことがその組織を強くしていくカギになります。
ポイント
上でご紹介した5つのプロセスには、PDCAにおける「Check(改善)」というプロセスは存在せず、その代わり「Control(監視・管理)」というプロセスが存在するのが特徴です。
またPDCAには「終結」プロセスは存在せず、長期的な展開を想定されており、ややもすればマンネリ化や形骸化につながる恐れがあります。
しかしながらPMBOKのプロジェクトマネジメントのプロセスにはプロジェクトの目的をしっかりと明確化することで、プロジェクト終結まで行うことが重要視されているのです。
プロジェクトマネジメントを構成する10つの知識エリア
PMBOKで定義されている5つのプロセス群を実行していくために必要な10つの知識エリアについてもPMBOKでは定義されています。
1.統合マネジメント
プロジェクトリーダー/マネージャーが、彼らの受け持つプロジェクトを成功させるためには、しっかりとした計画を立て、それらをうまくマネジメントしていくことが不可欠です。
統合マネジメントでは、上で述べた5つのプロセス群や他の9つの知識エリアを統合し、プロジェクト全体の計画や方針を決め、調整が必要な局面では、チームやメンバーがどのように検討や作業を進めるべきかをマネジメントしていく位置づけにあります。
ポイント
プロジェクト全体の計画や方針は、プロジェクト計画書としてまとめ、プロジェクトの決裁権限を持つトップマネジメント(プロジェクト・オーナー)や他の関係者に公式に認可された状態にしましょう。
2.スコープ マネジメント
プロジェクトの計画、実行中に、そのプロジェクトの範囲(=スコープ)をマネジメントすることはプロジェクトの成否において極めて重要なプロセスです。
よくあるプロジェクト失敗の原因の一つが、プロジェクトに関わる複数のメンバーの間で、プロジェクトの範囲の認識が異なることで、プロジェクトのコントロールを失い、想定していた規模より大きく/小さくなってしまったり、複雑化してしまいます。
プロジェクト計画時に、そのプロジェクトの成功に必要な成果物やタスクとして、何を含み、何を含まないのかを明確にします。
プロジェクトリーダーが自分の中だけでプロジェクトの範囲を定義しているだけで、プロジェクト・オーナーやその他プロジェクト関係者への確認や周知を怠ると、上述したプロジェクトの失敗に繋がります。
ポイント
プロジェクトの明確なスコープ記述書などを作成し、プロジェクト・オーナーやプロジェクト関係者に周知させましょう。
修正が必要ならプロジェクトが開始して早ければ早いほど修正が効きやすく良いです。
3.スケジュール マネジメント
プロジェクトが計画した期間で完了するように、プロジェクトの正確なスケジュールを作成し、それに基づいてプロジェクトが進捗するようにマネジメントします。
計画した通りに進捗しているか確認するには、スケジュール上にチェックポイントとなるマイルストーンを設定すると良いです。
スケジュールに遅れがある場合には、タイムリーに元のスケジュールに戻すようなリカバリー対策を打ったり、どうやってもスケジュールが遅れる場合には、プロジェクト・オーナーやプロジェクト関係者と調整が必要になります。
ポイント
いくら正確で詳細なスケジュールを計画したとしても、プロジェクト実行時にその計画通りに進捗しているか確認しなければ、まったく意味がありません。
またスケジュールの遅延のリカバリーには、追加の人員投入が必要になりコスト増となったり、本来のプロジェクトのスコープを小さくしたりする必要があることを覚えておきましょう。
4.コスト マネジメント
プロジェクトを予め承認された予算の中で完了するために、コストの計画、見積もり、予算設定を行います。
またプロジェクト実行中においては、計画した予算を超過しないようマネジメントを行ったり、プロジェクト全体として調整する必要があります。
ポイント
ビジネスをする上ではコストは低ければ低いほどよいので、プロジェクト・オーナー側はかなり敏感な事柄です。
そのためコストマネジメントにおいてプロジェクト・オーナー側と折衝の必要がある場合には、なかなか折れてくれず、たびたび厳しい交渉になります。
とはいえ、コストは品質や人的リソース、スケジュールなどとバランスを取る必要があるので、しっかりとした根拠を示していくことが大切です。
5.品質 マネジメント
あるプロジェクトがコストやスケジュールは当初の計画通りに完了したが、品質が悪く製品やサービスがまったく売れないといった場合があります。
逆にコストやスケジュールが当初の計画に未達でプロジェクトが完了したが、品質がよく想定以上に製品やサービスが売れたといったこともあり、その場合、プロジェクトとしては失敗かもしれませんが、ビジネスとしては成功といえるのかもしれません。
それほど品質はビジネスにおいてカギとなる要素なのです。
プロジェクトの品質プロセスとしては次のものがあります。
- 品質目標を決め、どのように達成するか計画する
- 品質保証を行い、プロジェクトが要求事項を満たしているか測定する
- 品質管理体制をチェックし、品質基準に合致すること、差異の特定と是正がされているか確認する
ポイント
品質目標を決め、その目標の達成計画を立てるにはプロジェクトのスコープを正しく定義することが大切になります。
6.リソース マネジメント
プロジェクトを成功させるために、人的リソースだけでなく物的リソースをマネジメントすることは最重要の要素となります。
リソースマネジメントとしては次のものがあります。
- リソース計画
- リソースの調達/確保
- チーム結成/育成
- チーム管理
プロジェクトの開始時においてプロジェクトを成功に必要な体制を計画し、その計画に基づいてプロジェクトメンバーや設備などを調達・確保する。
そしてプロジェクトメンバーの役割や責任を明確にし、必要に応じてプロジェクト成功に必要なスキルを育成する。
ポイント
往々にして、ベストのメンバーが最初から揃っているプロジェクトは少ない。また何かプロジェクトに問題が発生してから人的リソースを追加投入するマネジメント方法が横行しているが、これは当初のリソース計画ができていないプロジェクトが失敗に終わる可能性が非常に高い方法だということをしっかりと理解しましょう。
7.コミュニケーション マネジメント
プロジェクトを成功に導くに当たり、以下のコミュニケーションをうまく行う必要があります。
- プロジェクトリーダーとプロジェクトメンバー間のコミュニケーション
- プロジェクトメンバー間のコミュニケーション
- プロジェクトマネージャーと主要ステークホルダーとのコミュニケーション
具体的には、プロジェクト情報の計画、収集、生成、配布、保管、検索、マネジメント、コントロール、監視、そして最終的な廃棄についてコミュニケーションを取ります。
ポイント
よくありがちなのが、伝えたつもりなのに聞き手には伝わっていないというコミュニケーションエラーです。
特に日本語は曖昧な言語とされており、聞き手にとって都合の良いように解釈できるような伝え方ではコミュニケーションエラーに繋がります。
誰が聞いても伝える側の意図が伝わるような伝え方に気をつけましょう。
8.リスク マネジメント
革新的な、または魅力的な製品やサービスを生み出す際にはリスクを避けて通れません。
リスク マネジメントとは、プロジェクトの成功を阻害するものは何なのか、またそれが顕在化した際の影響度を予め想定し、それを予防する対策や、実際に顕在化した場合の対策方法を準備し、プロジェクト実行中にも継続的に管理することです。
プロジェクトを成功に導くために、プロジェクトリーダー/マネージャーが集中すべきマネジメント分野の一つになります。
ポイント
プロジェクトスタート時にリスクを洗い出しただけで、その後、想定したリスクを管理せず形骸化しているプロジェクトが多くあります。
またプロジェクト進行中にも新たなリスクや問題が発生することが通例です。
監視・コントロールのプロセス群においては、プロジェクトの進捗やコスト、品質だけでなく、リスクの一覧表などを作成し、新たなリスクや問題点を特定して監視する必要があります。
9.調達 マネジメント
大半のプロジェクトでは、プロジェクトを進行するために社外や社内から商品やサービスなどを調達する必要があります。
調達にあたり、業者の選定や管理、彼らとの契約やコストダウン、支払いスケジュールの交渉などがあります。
社内に調達部門がある場合、その部門の担当者とコミュニケーションを密に取り協力を仰ぎましょう。
ポイント
プロジェクトの進行に必要な物品やサービスについて、内製品が良いのか、社外から調達するのが良いのか常に意見が分かれるところです。
単にそれら物品の価格が安いからという理由だけでは足りず、内製品を使う場合にはキャッシュフローや社内資源の活用、自社成長の戦略的なシナジー効果が発揮させられるなど、様々な観点から費用対効果分析を行い、品質や予算、スケジュールなどの観点から決定しましょう。
10.ステークホルダー マネジメント
プロジェクトのステークホルダー(利害関係者)となる個人や組織を特定し、そのステークホルダーのプロジェクトへの期待とプロジェクトへの影響力を分析し、プロジェクトの成果物に対して主要ステークホルダーが満足するように情報の収集、保管、伝達などのマネジメントする必要があります。
ポイント
新米プロジェクトリーダー/マネージャーが陥りがちなのが、プロジェクトの品質やコスト、スケジュールなど当初の計画の通りに進行させてさえいれば、プロジェクトを成功に導けるという勘違いです。
プロジェクトは様々な利害関係者が絡み、そして彼らもプロジェクトの進行中に利害関係が変化したりします。
しっかりとしたステークホルダー マネジメントをしておかないと、プロジェクトの終盤になって、「私は聞いていない」といってゴネ始める人や組織が出てきます。
プロジェクトへの影響力がない人物であれば、そっとしておけばいい場合もありますが、往々にして影響力のある人物などがゴネ始めるのです。
まとめ
以下のような方々に向けて、国際的に標準とされプロジェクトマネジメントを知識体系的にまとめたPMBOK(ピンボック)についてご紹介しました。
- 突然、プロジェクトリーダーに任命されてしまった
- プロジェクトリーダー/マネージャーをやっているけど自己流で悩んでいる
- PMBOKはかじった程度なのでもう一度おさらいしたい
そしてPMBOKでは、プロジェクトに発生する多数のプロセスを幅広いプロジェクトにも適応可能な5個の基本となるプロセス群と10個の知識エリアに分類して定義しています。
5つのプロセス群
- 立ち上げ
- 計画
- 実行
- 監視・コントロール
- 終結
10の知識エリア
- 統合 マネジメント
- スコープ マネジメント
- スケジュール マネジメント
- コスト マネジメント
- 品質 マネジメント
- リソース マネジメント
- コミュニケーション マネジメント
- リスク マネジメント
- 調達 マネジメント
- ステークホルダー マネジメント
プロジェクトを成功に導くために苦労してきた先人たちの知恵が詰まったPMBOKを体系的に学んで、ご自身のプロジェクトにぜひ活用してください。